最初の一冊が合わなかっただけで、本そのものが苦手なわけではないのかもしれません。いきなり厚い古典や評価の高い長編を渡すより、その人が普段好きなものから逆算したほうが、ページをめくるきっかけになりやすい傾向があります。短め、映像化されている、話の着地がわかりやすい、といった条件は、読書に距離がある人ほど効きやすいといわれています。
以下は、渡し方の目安として使えそうな10冊です。
① 短い小説で、読書の楽しさを知ってほしい人へ
『ボッコちゃん』(星新一)
1話が数ページで終わるショートショート集です。オチまでが短く、途中で置きやすいので、「最後まで読めなかった」という苦手意識が起きにくい本かもしれません。星新一は超短編を大量に残した作家で、気に入った1話だけ拾い読みしても成立しやすいのが特徴です。
② 優しい物語から、読書を始めてほしい人へ
『西の魔女が死んだ』(梨木香歩)
祖母のもとで過ごす少女の物語で、大きな事件より日常の手触りが中心です。文章も比較的やわらかく、読書に慣れていない人でも入りやすいといわれることがあります。
③ ミステリー映画が好きな人へ
『容疑者Xの献身』(東野圭吾)
映画化もされているので、映像の印象から入りやすい一冊です。トリックだけでなく、登場人物の選択に焦点が当たるタイプのミステリーで、「犯人当て」だけが読書の楽しみではない、と感じられるかもしれません。
④ 青春映画が好きな人へ
『夜のピクニック』(恩田陸)
高校生たちが夜通し歩く行事を軸にした青春小説です。派手な事件より、夜の距離や会話の積み重ねで進むので、青春映画が好きな人には景色が想像しやすい傾向があります。
⑤ 少し怖い話が好きな人へ
『夏と花火と私の死体』(乙一)
タイトルからして不気味ですが、単なるホラーというより、語り口の不思議さが残る作品です。短めなので、怖い話は好きでも長編は重い、という人の入口になりやすいかもしれません。
⑥ 不思議な世界に入り込みたい人へ
『夜市』(恒川光太郎)
現実のすぐ隣に、少しずれた世界が開く短編が中心です。ファンタジーの大長編に抵抗がある人でも、1話ごとに世界を閉じられるので試しやすいかもしれません。
⑦ 本を読んで笑いたい人へ
『空中ブランコ』(奥田英朗)
精神科を舞台にした連作で、重さより人間のずれや滑稽さが前に出やすい作品です。笑える話が好きな人には、「文学は真面目でなければいけない」という先入観をほどく一冊になりやすいといわれています。
⑧ 恋愛や人間ドラマが好きな人へ
『トリツカレ男』(いしいしんじ)
言葉少なめの男性と、彼を見守る女性の物語です。映画化もされているので、映像から入って本文に戻る読み方もできます。大きな事件より、距離の取り方を読むタイプの恋愛小説です。
⑨ 数学や論理的な話が好きな人へ
『博士の愛した数式』(小川洋子)
記憶が80分しか持たない元数学者と、家政婦とその息子の交流が軸です。数式そのものを解く必要はほとんどなく、数字を「美しいもの」として扱う会話が中心なので、理系っぽい話が好きな人の入口になりやすいかもしれません。
⑩ 読みやすくて、読後に少し考えたい人へ
『博士の愛した数式』(小川洋子)
⑨と同じ作品ですが、渡し方を変えてもよさそうです。文章は比較的平易で、ページ数も長編としては重すぎない範囲です。読後に「記憶」や「家族のかたち」を少し考えられるので、感想を話しやすい一冊かもしれません。同じ本でも、「数学が好きだから」と「考えたいから」では刺さり方が変わることがあります。
本を渡すときは、タイトルだけより「この人が好きそうだから」を一言添えたほうが、開かれやすいようです。合わなければ途中で閉じてもよく、別の一冊に替えてもよい、という余白を残しておくと、贈り物としての圧も下がりやすいかもしれません。
読書の再開は、意志より相性で決まることのほうが多いように感じます。まずは相手の好きな映画、笑い、少しの怖さから選んでみると、最初の一冊が変わりやすくなるかもしれません。
こうした「最初の一冊」や、続けやすい読み方については、Xでも短く発信しています。よければ @passboxblog をフォローして、次の記事や投稿も見てもらえるとうれしいです。